表具とは何か?
表具とは表装ともいい、祖父は「ええ絵や書には“ええべべ”を着せなあかん」と口癖のように申しておりました。「ええべべ」とは関西では良い着物の事を指します。つまり表装とは、紙や絹に書かれた絵画や書に見合った服を着せる仕事です。ただ服を着せれば良いというものではありません。
表装に用いる表装裂には様々な種類があります。例えば綾、これは中国殷代より渡来し、奈良時代に発達した斜文織です。次に印金、これは表装裂として最高ランクのもので、裂地に文様の型を置き、漆、糊等の金箔、金粉等を接着材料で接着し、乾いた後に余分なものを払い落とし文様に表したものです。国宝や重要文化財、重要美術品に多く見られます。その他にも、金襴、錦、蜀江錦、紗、緞子などがあり、絵画や書に表装を行う場合には、それらの云われや歴史的背景を理解した上で適切な服選びをすることが重要になります。これを表具の世界では裂取りといいます。この裂取りを行うまでには、様々な知識や見識を備え、また体験や経験を蓄積していくことが大切です。 臨済禅師の臨済録には、次のような言葉があります。
「隋処に主と作れば、立処皆真なり」これは、どんな場所や場面においても、主人公として主体性をもって生きれば、今いるところ、今経験していることがすべて真実となるということです。
矢口浩悦庵は、令和9年には創業90年を迎えます。2代目矢口一夫は、現在公開特許となっている書籍文化財の代表格である漉嵌め法「リーフキャステイング」を開発。そして3代目とともに1987年秋には、昭和の大修復により鹿苑寺金閣を燦然と輝く姿に再現することに成功いたしました。3代目である矢口恵三は、(株)便利堂が完成させた伊藤若冲筆動植綵絵、釈迦三尊像コロタイプ全33幅(大本山相国寺所蔵)に若冲が当時考案されたとされる産裂を復元し、数年の年月をかけ全てを復元裂を用いて表装に仕立て、(※現在三の丸所蔵館に所蔵されている動植綵絵に使用されている表装裂は明治期に改装されたものであり、産裂ではありません。詳しくはこちら。)さらに文化財保存修理のみならず美術工芸品(仏画・屏風や書院襖絵)制作にも着手し、文化勲章受章者である日本画家故奥田元宋先生や文化功労者である日本画家故岩澤重夫先生、そして元総理大臣であられる細川護熙先生など、素晴らしい方々ともたくさんのご縁を頂戴しました。
近年弊社では、人の知恵と技術が集約された京表具の伝統を守りながら、新しいデジタル機器を用いた文化財調査や文化財収蔵施設の環境調査、改修作業、そしてご要望に応じたノベルティ製品の製作から高精細の複製品制作、収蔵施設内備品製作(設計、デザイン、資材調達、製作までを一括して行います)など幅広い分野で様々な事業を展開しております。 最後に、誠に微力ではございますが一意専心社素の発展に今後とも努力いたす所存でございます。そしてこれからも人々の心を豊かにする作品や修理を社会の皆様にご提供できるよう社員一丸となって、益々精進し取り組んでまいる所存です。何卒宜しくお願い申し上げます。
有限会社 矢口浩悦庵
代表取締役社長 矢口 修一朗